2010年2月1日月曜日

トモちゃんの長靴のはなし。

忘れたくないから、ここに書いておくこと。
雨の日によく思い出す話。

母は、産まれて間もなく、
割と豊かな子供がいなかった寺院に
もらわれて育った。
母の母(祖母)と紛らわしいので、
ここではトモちゃんと呼ぶ。

トモちゃんの家は、
豊かではあったが、本当の親じゃないから、
したいことも言えず、欲しい物があっても、
我慢して育った、という。

貧しい時代で日常品などはあまり、
贅沢できるわけではなく、
いつも同じ恰好で学校へ行く。
誰もがそうだった。

ある冬の初めに、
新品の長靴を買ってもらった。
赤い、輝くようにピカピカの長靴だ。
雪国でも、裸足で学校に通う子もいるような、
そういう時代に、
嬉しくてとても大切にしていたのに、
走っていて転んで、釘に引っかかり、
早々に穴を空けてしまった。

トモちゃんはそれを、
言い出すこともできず、
でも子供だから、こっそり
新しいものを買うこともできない。

見つからないように、
隠して2〜3日経ってから、
母にも見つかってしまった。

叱られることもなかったし、
またしばらくして、
新しい長靴を買ってもらえたけど、
トモちゃんはひとりで心を傷めたことを、
ずっとずっと覚えていて、
小さな私に、何度か話してくれた。

もうこの話は、
私の心の中にしかない。

祖母はもういなくなった。
トモちゃんもそのうちいなくなるし、
私もいつかいなくなるのだ。

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