2009年10月27日火曜日

市(いち)についてのスケッチ

詳しい時期は忘れてしまった。
母の育った家の話。

大きくは夏と冬と、
その間の春秋にもあった気がする。
週末だったか連休だったか、
2~3日ぐらい続く。

ふだんお客さんがぽつぽつの
呉服問屋は仕入れ客とお得意さんで
いっぱいになる。

みんなそれを、市(いち)と呼んでいた。
年末とかお茶会シーズンとか、
いわゆる何かの季節に合わせて、
たくさん物を仕入れてきて、
たくさん売るという日。
新作、お買い得品。
上客しか招待されない。

親類みんなが総出で手伝いにきて、
商品のディスプレーやら、
顧客対応やら、お茶だしやら、
いろんなことをする。

お店としては、ものがたくさん売れて、
そのお金で、お正月やら
次の季節の準備をする。

親族の小さな子供たちも、
親と共に集まって、
誰か大人が面倒を見るんだけど、
手に負えなくて店の中を走り回ったりしている。

市の時は、いつも楽しみで、
ハイテンションだった。
人がたくさんいて、
子供もたくさんいて、
おいしいものが食べられて、
出先だから、親は優しい。

とりわけ、小学生になった頃の、
木造の店舗から鉄筋3階建てに
立て替えた頃の市はよく覚えている。

人が、いつもの3倍ぐらい集まり、
にぎやかで、祖母も叔父も親族も、
普段着だけどおしゃれな着物姿で
たすき掛けなんかして、走り回る。

市の日の3日前ぐらいから、
店に山積みしてある贈り物の箱の中が
気になって、欲しくてたまらなかった。
帰ってゆくお客さんに、
ひとつづつ渡す「お中元」だったり
「お歳暮」だったりというやつだ。


どうしても欲しくて、ねだって怒られて、
何が入ってるのか聞いて
「子供が欲しいものじゃないのよ」と
返されて、結局もらえなかったし、
その時は、分からないままだった。

あとになって、
毎年決まったブランドのものを
贈っていると分かり、
ある年は海苔だったことも
成長してから知った。
やっぱり、な~んだと思った。


変形の五角形のような形で、
端にこよりのついていた値札。
客に仕入れ値がわからないように
カタカナの暗号で書いてあった。

毛糸の、編みこんだものを
何色もつなぎ合わせてある色見本。

正方形に格子に積まれた反物の山と、
季節ごとに変わる
帯や反物のディスプレー。
染色の見本帖など。
火鉢とか鉄瓶とかもあった。


ずっと昔に通り過ぎた映像が、
まだかろうじて一部だけ、
自分の中に残っていたりする。

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