2009年1月23日金曜日

私にとっての小川洋子作品

昨夜遅く「猫を抱いて象と泳ぐ」を読了する。

決してハッピーエンドとは言えないのに、
読後感はさわやかだった。
きっとそれは、少し特殊だったり不幸だったりする人たちが
それぞれ、可能な中で自己の力を発揮し、
精一杯に生きたことが描かれていたからではないかと思う。

少しずつずれている人々の抱える寂しさと
ひたむきさに胸が打たれる。
本を通して、流れる静かなメロディと
リズムにもシンクロしていた素敵な時間だった。

小川さんの小説は、デビューの頃から、
ほぼ全て読んできている。

記憶や喪失、何かを損なった人たち、
歪んだ世界にいる人たち、死者との対話、
そういったテーマやモチーフが繰り返し語られる。

特に「沈黙博物館」や「密やかな結晶」はとても大切な作品。
短編であれば「寡黙な死骸 みだらな弔い」が好き。

残酷で、グロテスクで、背中の凍るような怖さを、
丁寧に言葉を選び、静かで透明な文章で綴られる。

ずっとデビューの頃から、
そういう姿勢やテーマ、文体にはぶれがない。

最近の3作ぐらいは、さらに、
温かさや度量の広さを獲得して、
より世界が大きく柔らかくなったと感じている。
(とても偉そうな言い方で申し訳ないと思うけれど‥)
だから、もっともっと好きになった。

人と明るく感想を語り合う作品でもなく、
もしかしたら、現実からの逃避であるかもしれない場所へ、
自分のためだけに潜る時間。
私にとっての小川作品はそういうものだ。


そういう、
誰ともうまく共有できない静かな小石のような部分を、
心の奥に抱えている人に魅力を感じる。
そういうものが全くない人はいないと思うけれど、
なんとなく陰(イン)の部分がなくて、
自己の内側の暗さや醜さを避けている人は苦手かもしれない。

なんだか、うまく説明できなくてもどかしいけど、
日々流れるブログの性質上、このままを‥

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